起こし絵について

 先人達が作り上げてきたすばらしい物たちが、日々失われていく現代です。その記憶を身近に残しておこうと、額縁の中に、平面と立体を交じり合わせた手法で表現しました。

 一見すると絵の様にも見えますが、実際に奥行のある三次元空間で表現されています。内蔵された鏡がその立体感をさらに強調し、絵画の様に壁に掛けられます。照明を内蔵した作品もあり、昼と夜の情景を味わえます。

侘(わび)

 茶室独特の様式である躙口(にじりぐち)をテーマに、その奥に広がる究極の空間を表現しました。茶室の内側は、壁、床、天井、障子に至るまですべて再現してあります。しかも一番奥に鏡が仕込んであるために奥行きが作品全体の厚み以上に感じられ、不思議な感覚に捕われます。また鏡の効果として、奥を明るくできることが挙げられます。鑑賞者側の空間が明るければ、茶室奥の障子の外は明るくなり屋外につづく庭の空間をイメージできるのです。W47xH35xD11cm 2003年作製

小机邸

 取り壊される家屋を保存するために作った起こし絵。実際に何度か現場を訪問し、残された昔の写真などを基に再現。起こし絵の特徴である「絵画仕立て」にするため、一番表現したいアングルを決めたら、他の部分はできるだけ省略する。

 庭木などの植物を紙の切抜きで表現するのも起こし絵の特徴。市販の建築模型用樹木などを使うと、意図したものとは違う表現になってしまう。

 実際の間取りと違ってしまうが、鏡を仕込んで奥行き感を優先。 W57xH36xD15cm 2001年作製


 料亭の門から奥へと続く石畳。門をくぐり右へ進むと石畳は更に左奥へと続いていく。 門に掛かる暖簾は背景の白い台紙と一体のもの。門の屋根の棟(むね)にある竹は、使い古した筆の軸を使用。表面を削って節を作る。屋根は紙の小片を重ねて柿葺き(こけらぶき)の味わいを出す。行灯にも照明を内蔵。 W35xH47xD10cm 2004年作製